住民投票条例について
2003年3月 本会議

中森辰一議員の討論(2003年3月議会)


成立要件「投票率50%以上」はあまりに高いハードル
事実上、活用困難に
日本共産党は、成立要件「投票率3分の1以上」を共同提案
成立しなくても開票して、住民意見の尊重を
 2003年3月の本会議で、政令市ではじめてとなる常設型の住民投票条例案が可決されました。住民自治の流れが着実にすすんでいる現在、広島市で先進的な条例ができたことは画期的なことです。
 しかし、議長会派である新政クラブと公明党などが提案した改悪案により、「投票率50%以上」という成立要件が盛り込まれてしまいました。
 広島市では、近年の市長選挙、市議会議員選挙でも投票率が50%を下回っている状況であり、大都市で「投票率50%以上」という条件は、あまりに高いハードルです。
 しかも改悪案には、成立要件を満たさなければ開票もしないという条項も含まれています。これでは、せっかく住民の声を直接反映できるしくみができても、事実上活用されることが大変難しくなります。
 日本共産党は他会派と共同で、せめて成立要件の投票率を3分の1にして、成立しない場合でも開票し、住民意見を尊重することを求めた修正案を予算特別委員会に提出しましたが否決。本会議でもう一度、同趣旨の「新たな条例案」として議員提案しましたが、否決されました。

広島市住民投票条例
「日本共産党が共同提案した議員提案」と「可決された改悪案」の違い
市の提出案
日本共産党
社民党
市政改革クラブ
の共同提案
可決された改悪案
新政クラブ
公明党などの提案
投票の発議者
市民、市議会、市長
市民のみ
市民のみ
住民投票の成立要件など
設けない
投票資格者数の3分の1以上で成立

成立しないときも開票する
投票資格者数の2分の1以上で成立

成立しないときは開票せず
設問の形式
規定なし
二者択一で賛否を問う
二者択一で賛否を問う
投開票の方法
投票ができる期間を複数日定める
投票日を1日だけ定め、公職選挙法などの規定に準じる
投票日を1日だけ定め、公職選挙法などの規定に準じる
中森辰一議員の討論
2003年3月19日 本会議
「50%以上が投票しなければ開票もしない」では、市民の努力が無駄に
50%をかろうじて越えた徳島市では、激しいボイコット運動
沖縄県基地問題の住民投票でも県会議員選挙よりも低い投票率59.5% 
有権者90万人の広島市で50%以上は、あまりに高いハードル

「50%以上が投票しなければ開票もしない」では市民の努力が無駄に
 本会議の場であり、高校生や大学生をはじめ、傍聴の市民もおられるので改めて述べますが、今回の市長提案の眼目は、これまで、せっかく住民が署名を集めて住民投票を求めても、議会で否決してしまう事例が多かったことから、一定の要件があれば住民が住民投票を発議できるしくみをつくろうとした、というところにあると考えます。
 ところが、市民が大変な努力を重ねて、せっかく有権者の10%以上の署名数で発議をしても、有権者の50%以上が投票してくれなければ開票もしないということでは、市民の多大な努力を無に帰してしまうことになります。

50%をかろうじて越えた徳島市では激しいボイコット運動が
 全国から注目された徳島の可動堰問題での住民投票では、50%の成立要件をかろうじてクリアしましたが、その成立要件をめぐって投票ボイコット運動が激しく行われましたし、こともあろうに建設大臣が住民投票をけん制する発言まで行いました。それだけに、投票を進める人たちは必死で投票を呼びかけました。
 全国から注目されていただけに、現地の外からも多くの人が投票運動を激励し、わざわざ帰省して投票した大学生もいたそうです。そうした懸命の努力があってはじめて成立要件を満たしたわけです。
 徳島市では投票した人の9割が可動堰に反対でした。問題に関心がない人はもちろん投票には行かないでしょうし、ボイコット運動が行われたこの例では、可動堰に賛成の人はあまり投票しなかったわけです。
 そうすると、ボイコット運動が徹底して、投票した内の1割の賛成派まで投票しなかったとしたら、徳島市では成立要件を満たさなかったことになります。つまり、この例では可動堰反対がどれだけあるのかわからないという結果だけが残ることになります。これでは、住民投票を実施した意味がないということになります。

沖縄県基地問題の住民投票でも県会議員選挙よりも低い投票率59.5% 

 昨日も、過去に住民投票を行った例では多くが投票率が高かったと指摘されましたが、ずいぶん以前の広島市の平和都市建設法などの特別法に関わるものを除けば、ほとんど人口数万人規模までの自治体です。
 しかも、通常の町長選挙や町会議員選挙とくらべてどうかと聞いてみると多くは、議員選挙よりも住民投票のほうが投票率が低いのです。大都市の広島市の人口とは比較にならない一方で、高いとは言いながら、議員選挙よりも住民投票の投票率が低くでている。この点はよくみる必要があると考えます。
 唯一、広島市より人口が大きい例の、沖縄県での日米地位協定の見直しなどに関する住民投票では、投票率は59.5%でした。問題が基地問題で苦しんできた沖縄県での50年来の問題に関することであるにもかかわらず、それでも、投票率は6割に至らなかった事実には注目する必要があると考えます。
 ちなみに、ここでも住民投票が県会議員選挙よりも投票率が低くなっています。広島市長選挙や市会議員選挙の投票率を考えると、住民投票で50%の線を越えることは、かなり困難だと考えられます。

有権者90万人の広島市で50%以上は、あまりに高いハードル
 有権者20万人の徳島市でも10万人の要件をクリアするために、きわめて大変な努力を余儀なくされたわけです。90万人近い有権者の広島市で、50%の成立要件を課すというのは余りにもハードルが高すぎると言わねばなりません。これでは、せっかく住民投票条例をつくっても結局、用をなさないものになりかねません。
 また、せっかく人手も時間もお金もかけて民意をはかるために住民投票を行うわけで、投票数が一定の水準に満たない場合でも、提起した問題について、意見を表明した市民の意思はどういうところにあるのか、開票してみてその結果を受け止めることは当然だと考えます。
 他方、そうは言っても、投票率が1割や2割でも住民投票をやったことになるのか、という意見もあろうと考えます。その点では、選挙の投票率と比べても3分の1程度なら高いハードルということにはならないと判断しています。
 また、発議者については、市長にしても議会にしても、住民の意見を集約する手段はあると考えますし、市長提案の眼目が、市民発議の制度を整えるというところにあること、発議にハードルがない市長や議会による濫用の可能性を取り除く意味でも、住民発議のみで充分だと考えます。
 日本共産党市議団としては、特に、成立要件を投票率2分の1以上とし、それ以下の場合は開票もしないと修正された第25号議案による条例では、本市においては現実に住民投票条例として役割を果たせるとは考えられず、これは認めることはできず反対です。
 その上で、成立要件は投票率3分の1以上とするが、それに満たなくても開票は行うとした条例案を、改めて他の会派と共同で提案することにしました。
 市民にとって、実際に使える住民投票条例とし、市民の政治・行政への参加を積極的に促すなかみのある条例とするために、議員のみなさんの賢明なご判断を期待して、討論とします。

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