議会での質問・答弁

2021年06月25日

2021年第2回 6月定例会 議員提出議案広島市平和推進基本条例の制定について反対討論 中原ひろみ議員

議員提出議案広島市平和推進基本条例の制定について資料
・広島市平和推進基本条例案・宮崎誠克議員の提案趣旨説明・馬庭恭子議員の反対討論

 山田春男議長と欠席した自民党市民クラブ中本弘議員を除いた採決で、

 賛成は自民党市民クラブ12人、自民党保守クラブ11人、公明党8人、市政改革ネットワーク5人、市民連合3人、広島創生クラブ1人、清流クラブ1人、広島新生クラブ1人の計42人。

 反対は日本共産党の5人と、市民連合山内正晃議員、山本昌宏議員の2人、自民党保守クラブ児玉光禎議員1人、市政改革ネットワークの馬庭恭子議員1人の計9人。市政改革ネットワークの竹田康律議員1人は退席しました。

賛成多数で可決されました。

 

 

 


 日本共産党の中原ひろみです。党市議団を代表して 議員提出第5号議案「広島市平和推進基本条例」について反対の立場から討論します。以下にその理由をのべます。

 まず、本条例は広島市議会が政策立案機能を発揮して初めて取り組む「条例」です。この2年間、若林代表をはじめ政策立案検討会議の委員におかれては、被爆者・専門家・市民の意見を聞きながら、素案の検討に尽力されたことに敬意を表するものです。
 政策立案検討会議のなかで党市議団は、条文案について様々な提案を行い、規定に反映されてきた部分もありますが、憲法との関係で配慮すべき最も重要な規定が修正されていません。
それは6条2項の規定です。広島弁護士会から繰り返し意見が出され、被爆者団体からも指摘されたように、6条2項の「平和祈念式を市民の理解と協力のもとに厳粛の中で行うものとする」との文言は、憲法が定める表現の自由や思想・良心の自由を制約することにつながりかねなません。
 市民の中には、政治情勢をはじめ核兵器廃絶に関する対応などについて多様な考えがあるのは当然であり、その表現方法も様々です。しかし、この条例が制定されれば、広島市は、「市民の理解と協力のもとに」平和祈念式典を「厳粛の中」で行うことができるよう、市民に対して働きかける義務を負うことになります。
 つまり、この規定は、平和祈念式典が「厳粛の中で」行われることの妨げになると考えられるような市民の行動に対し、広島市がそれを規制しようとする根拠規定となるものであり、表現の自由を保障した憲法21条に抵触しかねません。
 また、広辞苑では「厳粛」とは、「おごそかで、心がひきしまるさま」と説明されています。平和祈念式典が「厳粛」に行われるように広島市が市民に働きかけることになると、市民の心(内心)のありように行政が介入することになりかねません。これは、憲法19条「思想良心の自由」の侵害の疑いも生じます。
 5月25日の「政策立案検討会議」では、広島市議会が2019年6月25日に平和祈念式典は「厳粛な環境の中で執り行われることが求められている」と決議していることから、この「決議」の文言を条例の中に書き込むことは当然との意見が出されたと聞いていますが、議会の「決議」は、「意見書とちがって法的な根拠はありません。議会の意思を対外的に表明するために行われる「議会の事実上の意思形成行為」です。
 しかし、条例は法令の一種であり、法的拘束性を有する点で、「決議」とは法的に異なります。決議の文言をそのまま条例で規定化しただけであっても、条例で定めれば法的な拘束性が生じます。
 広島市の執行機関に、思想・良心の自由を定めた憲法19条、表現の自由を保障した憲法21条に抵触しかねないことを義務づけることになります。そのような条例を広島市議会が制定すべきではありません。
 全国町村議会議長会が編集された議員必携では、「憲法第94条において法律の範囲で条例を制定することができる」としており、「憲法で定めた基本的人権に関することがらを制限するような規定を設けた場合、多くの問題が生じる」と書かれてあります。議員必携が注意喚起しているように市が制定した条例が基本的人権を制限するような事態にならないためにも、最低限、6条2項の「厳粛のなか」という文言は削除すべきです。
 今議会には、行政法学の専門家や平和学の研究者からも請願や陳情が提出され、次のような2つの問題点が指摘されています。
一つは、市議会が発案した「広島市平和推進基本条例」の「平和の定義」が2001年9月28日に施行された「広島市男女共同参画推進条例」や2020年6月議会で市議会が議決した「広島市基本構想」の「平和の定義」と異なり、狭すぎる。それぞれの条例に整合性がなく齟齬があるとの意見です。
 具体的に言えば「広島市基本構想」では、「平和」とは世界中の核兵器が廃絶され、戦争のない状態の下、都市に住む人々が良好な環境で、尊厳が保たれながら人間らしい生活を送る状態をいう」としています。「男女共同参画推進条例」では、「平和とは、紛争や戦争のない状態だけをいうのではない。すべての人が差別や抑圧から解放されて初めて平和といえる」としています。
 しかし、「広島市平和推進基本条例」では、「平和」は世界中の核兵器が廃絶され、かつ、戦争その他の武力紛争がない状態と定義しています。男女共同参画推進条例や広島市基本構想が定義している「貧困と格差」「暴力」のない状態や 歴史のなで発展してきた「ジェンダー平等」という概念などを含め、人類が到達した「平和の定義」を条例に取り入れるべきと考えます。
 今一つは、行政法学では、「後法は前法に優先する」という法原則があります。すなわち「後から出来た法律がすでに施行された法律に優先」します。
 よって、「広島市平和推進基本条例」が可決されれば、既に施行されている男女共同参画推進条例の「平和」の定義が、後から制定された「広島市平和推進基本条例」の「平和」の定義へと変更され、後退することになるという指摘です。
 このような行政法学や平和学の研究者の指摘を市議会は無視することなく、真摯に受け止めて、条例の「平和の定義」について再検討することが求められます。
 核兵器禁止条約が発効され、核兵器廃絶へと向かう歴史的な年に平和推進条例を制定しようとする広島市議会の取り組みは、大変に意義深いものであり、国内はもちろん、世界から注視されるものとなるでしょう。
 この条例は、核兵器禁止条約が発効された年に、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に寄与することを目的に被爆地ヒロシマの市議会が制定する条例ですから、被爆者援護をはじめ、平和教育や核兵器廃絶を目指す具体的な取り組みが前進し、世界の核兵器廃絶の流れを推し進めることに貢献する条例であることが望まれます。
 「核兵器禁止条約が発効した」という事実だけは条例の前文に加えられましたが、核兵器禁止条約発効の歴史的意義については触れられていません。核兵器禁止条約の発効を力にした具体的な施策を何も求めていません。
これでは、今、この時に広島市議会が条例を制定する意味は何だったのかと市民から疑問が出てきても不思議ではありません。
 6月4日には被爆者団体が議長に対し拙速な条例決定を急がず、慎重な議論を要請されています。被爆者団体は、もっと市民や専門家の意見を聞く場を設け、「広島市平和推進基本条例」の名前にふさわしく、核兵器廃絶にむけた具体的な行動や施策を進め、広島市が被爆地の責任をこれまで以上に果たしていく条例を求めておられます。この被爆者団体の意見を被爆地広島の市議会は重く受けとめるべきです。
 本6月定例会で条例制定を急がなくても広島市の平和行政が滞ることはありません。核兵器廃絶への世界の動きを後押しし、被爆者援護をはじめとして広島市が核兵器廃絶の積極的な施策を進める条例になるよう再度の検討が必要だと考えます。

 以上の理由から今議会での拙速な条例制定には賛成できません。